エンターテインメントとしての映像やドラマを創る上で、面白いと思える作品にはストーリーの共通定義がある。プロデューサーや監督のインタビュー取材やメイキング、シナリオ創作術や分析本には、ほとんどこのストーリーの定義について語られることはない。
ストーリー開発の共通言語の一端を知る入り口になることを目的とする。
多くの方がストーリーという言葉を聞いてイメージされるのは起承転結という言葉が思い浮かぶはずだ。これはある意味では正解でもあるけれど、正解ではない。僕自身がこの答えを知ることになったのは、ちょうど10年前(2011年)に主催した「グローバルマーケットでなぜストーリー戦略が必要なのか?」と題したセミナーだった。
このセミナーではアニメーション監督、シナリオライター、プロデューサー、字幕翻訳者など映像業界に関わる専門家が参加し、講座のテーマは以下の内容だった。
●世界に売れる、国内でヒットさせるストーリー開発手法とは?
●ハード産業とソフト産業の見極め方とは?
●なぜ『リング』『呪怨』はハリウッドでリメイクされたのか?
●なぜ、『おくりびと』は外国語映画賞を受賞できたのか?
●『スラムドッグ&ミリオネア』はなぜアカデミー賞に値するのか?
※ストーリーに隠されたテーマとは?
●『仁-Jin-』を中心に、なぜ世界80カ国に売れるのか?
●『アルマゲドン』のストーリーの構成力
●チャーリー・チャップリンの『キッド』のテーマは?
僕はこれまで映像の業界団体(経済産業省や文化庁所管)で映像産業や映像文化を促進する、いわゆるクールジャパンなどの人材育成事業に関わってきた。具体的に携わってきた仕事としては、映像クリエイターと企業をマッチングするための商談見本市(TIFFCOMやCreative Market Tokyo)の運営やインディペンデントの映像クリエイターやプロデューサーが制作した作品を海外の国際映画祭に出品したりセールスためのサポートを行っきた。現在も国際映画祭の事務局運営に携わっている。そうした事業の中で、クリエイターやプロデューサーの方からシナリオや企画書を渡され、意見やアドバイスを求められることがある。
20年前、映像ソフトのメーカーに勤務していた頃は、広報部に所属し、ビデオソフトのパッケージのデザイン制作が主な仕事だった。会社全体からみたとき、それぞれの部署がどのような業務内容を行なっているかを知るために部署の役割を超えた研修にも参加し、川上ではキャスティングや制作現場のアシスタント、川下ではレンタルビデオや書店に直接訪問して、販売営業の現場も見ることができた。
大きな組織ではなかったが、自分の部署だけの業務をこなすだけではなく、メーカーの一員として「何をすべきか」を自分自身で考えて行動できる職場だったので、その経験はコンテンツビジネスとしてのストーリーを一貫して、現場を知ることができたことは幸運だった。
メーカーを退社したあとは、角川書店グループが立ち上げた映画ファンドの運営会社に所属し、脚本分析や開発に関わることができた。この時、作品の企画がどのように開発すればヒットするのかということに興味を強く持った。すなわち、ストーリー開発の重要性である。
これから映像のストーリー=物語を語ろうとしている人、もしくはすでに映像制作をしている人へ僕が学んできた「ストーリー」の定義と「ストーリー」を開発・創作するための共通言語を体系化することが目的である。
2011年3月に主催したセミナーからちょうど10年が経ったが、一つの転換点として、自分自身のこれまでの仕事のやり方や結果を新たな視座で見直す機会としても、このnoteを更新し続けるつもりなのでしばらくお付き合いいただければと思う。
なぜ、ストーリーの共通認識ができないのか?
感性や個性が大事と言われる芸術や文化の創造において、ストーリーの定義なんて必要ないと思うかもしれないが、映画やドラマは特に複数のクリエイターやエンジニアが参加し、一人一人違った感性や技術を組み合わせ一つの作品を作り上げることを目指している。しかし、その組み合わせがうまくいかず、全く予想していなかった作品が生み出されてしまうことが多い。
「ストーリー」はよく使われている言葉だが、日本のクリエイターが実は知っているようで知らないのが「ストーリー」。文学や漫画に慣れ親しんできているが、抽象的な言葉のイメージがあるだけで、学校や教科書ではほとんど教えられていない。
紀元前(前384年から前322年)古代ギリシャの哲学者アリストテレスの詩の創作術「詩学」の中では、すでに「ストーリー」の定義がなされている。長い歴史の中で、欧米やハリウッドのクリエイターに「ストーリーとは?」という質問を投げかけると必ず同じ答えが返ってくるのである。
僕もこのストーリーとは?の質問に対する答えを、いくつか考えて用意していたが、知っているようで知らなかった答えだったと、衝撃を受けたことを今でも覚えている。
日本と海外のストーリーに対する理解の前提が全く違う。
物語に関する創作術、主に小説やシナリオなどの技法を紹介する類書がたくさん出版されているが、その中でも僕がストーリーについて学ぶきっかけとなった本がある。
日本で唯一ストーリーコンサルタントとして活動を始めた岡田勲先生が監訳した「神話の法則」だ。
本書にはスター・ウォーズを創作する過程でジョージ・ルーカスが影響を受けたジョーゼフ・キャンベルの「神話の力」「千の顔を持つ英雄」(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)を元に普遍的なストーリーを構築する原型がどのように映画作品に影響を与えているかを書き記している。
岡田先生曰く、ハリウッドのクリエイターやプロデューサーとストーリーについて会話するときに、決まって共通認識があると言う。
僕自身も社会人になってからシナリオの創作塾や映画制作の専門学校へ通ったことがある。しかし、ストーリーの定義や共通認識は未だかつて耳にすることはなかった。自分が聞いてなかった場合もあるかもしれないが、義務教育やそのような学校や塾では基本的には「起承転結」についてしか聞いたことがない。
しばくして、岡田勲先生が主催するストーリー開発のセミナーに参加して初めて知ることになる。セミナーでは、ストーリーを生み出すためのメソッドやマーケティングのノウハウなどについて講義を受けた。こう書くと新興宗教やビジネスセミナーの布教セミナーに参加したように聞こえるかもしれないが、脳が覚醒したような衝撃を受けた。
今回の連載はその講義を自分なりに再編集・再構築すると同時に、変化・不安定な時代においてストーリーのコンパス=羅針盤を身につけて、航海をしても遅くはないはずだ。目指すべき航海の目的は以下となる。
ストーリーを定義すること。
ストーリー開発を正しい手段で正しい方向に導くこと。
ピッチングの秘訣を学ぶこと。
人を惹きつける、話を聞きたがるようなストーリーテリングの技術を、身につけること。
ストーリー戦略を持ったプロデューサーの人材育成。
今、我々は大きく変化しようとしている世界にいるが、はるか以前、神話が語り続けられてきたように、まさに個人や企業、そして文化としての普遍的なストーリーを創造し、新しい未来を作るべきときにきたと感じている。
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